『風のかたち-小児がんと仲間たちの10年-』の姉妹編。「医師 細谷亮太・俳人 細谷喨々」の世界を通じて「いのち」に触れる、俳句でつづるドキュメンタリー。こどもたちの命の輝きが、そしてこどもたちと本気で向き合う大人たちの姿が描かれた傑作です。
 その上映を記念して、前作『風のかたち 小児がんの仲間たちの10年』と、いせフィルムの作品の中からシネモンド未公開の『ゆめみたか』『白い花はなぜ白い』を特集上映します。そして、公開初日には伊勢真一監督と細谷亮太先生のトークイベントも行います。映画の中では描ききれないお話をと、今回はトークイベントにたっぷりと時間をとりました。お二人のトークイベントは東京をはじめ各地で満席になっています。ぜひ映画とあわせてご覧ください。

『大丈夫。-小児科医・細谷亮太のコトバ-』 公開記念
伊勢真一(映画監督)&細谷亮太(医師・俳人)トークイベント

8月6日にシネモンドで行われたトークイベントの内容です。映画とあわせてぜひご覧下さい。


伊勢:小児がんの記録を撮りたいと細谷先生から頼まれたのは12〜13年前でした。まったく小児がんの知識のないまま、病気の子どもたちの集まる夏のキャンプに参加しました。聖路加病院の近くでふぐをごちそうになったのを覚えています。僕は、たべものに弱いです。

細谷:僕が、医者になった1972年頃は、小児がんは治らない病気でした。
アメリカでは半分くらい治るのに、日本では治らなかった。そしてその頃、アメリカでは、子どもの人権を大事にする時代が来ていました。こどもにちゃんと病気を伝えて、これからどんな治療をするのか説明して手術しないといけない、という時代になっていました。僕はアメリカに行って「子どもたちに病気の告知をして、わかってもらったうえで治療するように」という宿題をもらって帰ってきました。だけど帰国してしばらくは告知はぜんぜんすすまなかった。1990年くらいになって、すこしづつ増えていく中で告知される子どもたちが、「自分たちだけなぜ知らされるんだろう」という悩みを抱えるようにもなっていきました。それで、悩みを言い合える環境つくろうと、サマーキャンプをはじめました。
伊勢さんに撮影をお願いした頃は、小児がんの8割が治るようになっていたのだけど社会的に知られていませんでした。メディアが小児がんや白血病を「悲劇のヒロイン」として描いたりしてきたことで、病気に対して偏見や誤解がたくさんありました。それが、治った子どもたちを非常に生きにくくしていました。キャンプをやってみて、お互いの悩みをいいあえる環境をつくれるとわかって動く媒体として残しておけば、それにひきづられて社会が変わっていくんじゃないかな、と思った。それでこれはぜったいとらなければならないと思って、ちゃんと時間をかけて撮ってくれる伊勢さんにお願いしました。いちばん安いふぐをごちそうしました。

伊勢:前作「風のかたち」で、8割の治ったこどもたちの希望を描く一方で、2割のこどもたちについては、やはりむずかしいというもう一つの事実があって、、、細谷先生の詠んできた俳句も半分以上は治すことができなかった子への俳句で。その2割の子どもたちのためにもうひとつちゃんと作らなければ、という思いがありました。

細谷:はじめから、みんなにみてもらおうと意図していたわけではなくて、子どもたちだけの上映会を毎年毎年重ねてきました。続けていくうちに、世の中も少しずつ変わってきて、子どもたちも、人に見られてもいいと言ってくれるようになってきた。伊勢さんも、最初は“子どもたちに病気のこと聞くのは申し訳ない”という感じだったけれど、みんなにみてほしいという気持ちが強くなっていきました。それで「風のかたち」ができて、今回の「大丈夫。」にまでつながってきました。
“はやく撮りたい”という監督では、子どもたちは撮影に同意しなかったと思います。伊勢さんは撮影のできない監督で、そういう人のまわりには優秀な人が集まってくる。カメラマンの方はカメラを向けながらも、体全体で共感をもちながら子どもたちをとる方でした。それで、子どもたちも心を開く、私も言わなくてもいいことまでついつい言ってしまう。そして、ふつうはカメラで撮った映像には映る人が放っている特別な雰囲気はなくなってしまうはずなんですけれど、伊勢さんが編集することで、映像に再びオーラが戻されている、、、そんなような気がします。

土肥:私は、最初は映画関係者の方がたくさんいる中で「大丈夫。」をみました。それで「必ず、金沢で上映します。」とみんなの前で言ってしまいました。「風のかたち」よりも引きしまっていて、切れがいい感じがしました。伊勢さんは、構成・編集の天才。時系列で並べるようなことはしない。映画の中で、細谷先生が若かったり、年をとってたり、行ったり来たりしながらすすんでいく。でも、それがまったく不自然なことじゃなくて。星空や自然の映像を見てると、まるで自分もそこに一緒にいるような感覚にもなってくる。そんな編集は伊勢さんにしかできません。

伊勢:こんな映画にしよう、こんな構成にしよう、という思いはありませんでした。細谷先生のご実家のある山形に行ったのも、おいしいおそばがあるから、と言われて行きました。(笑)
人間の記憶というのは、時系列で並んでいるわけではなくて誤解や勘違いもたくさん含みながら、いろんなことを覚えている。そういう動物的な勘で編集しています。だから、どうしてこういう編集になってるのですか?と聞かれて答えられないことも多いです。「風のかたち」「大丈夫。」に関しては、子どもたちと一緒につくった感覚がとても強いです。今、全国まわっていますが、空いてる席があるとこどもたちが来てくれているような気がするんです。

西村:とても言葉の重みのある映画でした。映像だけではわからないような気持ちが俳句に凝縮されてでてきていました。俳句というのは、言葉を失ったときにでてくる。細谷先生の俳句が、つづられる映像をを立体的にしていました。

伊勢:人間て、生きるために明かりを獲得してそっちを向き続けてきたけれど過去に読まれた俳句一遍の中にも、ずっと語られ続けるものがありますよね。それが生きていることの中身のように感じるときもありますね。

西村:要所でうつっている春夏秋冬がとても印象的で、たいせつなことを風に語らせたりかなかなに語らせたり、、、観る人の想像力や人生経験を信頼して映画をつくっているんだなと思いました。

土肥:伊勢さんの映画は、「大丈夫。」のほかにも「風のかたち」「白い花はなぜ白い」「ゆめみたか」シネモンドで上映します。どれも本当にすばらしい作品ですので、ぜひご覧ください。


伊勢真一監督特集上映

『大丈夫。-小児科医・細谷亮太のコトバ-』の公開にあわせて、伊勢監督の作品を特集上映致します。ぜひこの機会にご覧ください!

『風のかたち』
[2009/日本/1時間45分]
監督:伊勢真一 出演:細谷亮太
伊勢監督が偶然のようにして出会った小児がんの子ども、そして大人たち。カメラは社会の偏見を跳ね返そうともがく「彼ら」を見つめ、記録し続けた10年という歳月が生きる意味をやわらかに問いかける。細谷亮太医師を追った第1作。

『ゆめみたか 〜愛は歌 田川 律〜』
[2008/日本/1時間26分]
監督:伊勢真一
出演:田川律、高橋悠治、斎藤晴彦、ハンバートハンバート
評論家・舞台監督・賄い人・編み物をする人・学校の先生? ミュージック・マガジンの創刊に関わり、ボブ・ディランの紹介者でもある田川律さん。70歳を超えてガゼン「歌うこと」に目覚めた田川さんと愛する歌たちとの旅を、ウロチョロついてまわるヘンテコなロードムービ?!

『白い花はなぜ白い ─哲ちゃん・映像作家─』
[2008/日本/1時間22分]
監督・出演:伊勢真一
出演:渡辺哲也、純子、らら、尋、宮田八郎
植物学者・牧野富太郎を敬愛し、穂高を描いた映像作家、渡辺哲也。「誰が観るとも知れない映像を職人のように創り続けてそして死んだ。居なくなってから、そんな奴がいたということを知って欲しいと思い、映画のようなものを創ってみた。」 ──旧友・伊勢監督が綴る詩情豊かなレクイエム。


  8/6
(土)
8/7
(日)
8/8
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8/9
(火)
8/10
(水)
8/11
(木)
8/12
(金)
10:15 大丈夫 風の ゆめ 風の 風の 白い 風の
12:15 トーク 大丈夫 大丈夫 大丈夫 大丈夫 大丈夫 大丈夫

  8/13
(土)
8/14
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8/19
(金)
10:15 大丈夫 大丈夫 大丈夫 大丈夫 大丈夫 大丈夫 大丈夫



--- 伊勢監督のメッセージ ---
「大丈夫。」は小児科医・細谷亮太さんの口ぐせです。 診察を終えた子どもたちひとりひとりに、必ずその一言を 添えて、励まします。

それは、40年来、小児がん治療の最前線で子どもたちの 「いのち」と向き合い続けてきた、細谷先生の自分自身への 励ましのコトバなのかもしれません。

“朝顔の 花数死にし 子らの数” (亮々)

病気の子ども達との40年来にわたる日々を綴った 細谷亮々(先生の俳号)の二冊の句集をめくりながら 「風のかたち」に続く姉妹作「大丈夫。」をつくろうと いう思いが湧きあがりました。

映画「大丈夫。?小児科医・細谷亮太のコトバ」は、 些細なことにメゲて落ち込んでしまう癖のある私や 映画を観るひとりひとりへの、励ましの言葉です。 それは、細谷先生のコトバを借りて、沢山の子ども たちの心が語りかけてくれている、お祈りなのかも しれません。

映画を観終えたら、貴方も誰か他の人に「大丈夫。」 と言いたくなるに違いありません。

「大丈夫。 ―小児科医・細谷亮太のコトバ―」
8/6(土)〜8/19(金)公開
[2011/日本/1時間25分]
監督:伊勢真一
出演:細谷亮太(聖路加国際病院)
公式ホームページ →→→
http://www2.odn.ne.jp/ise-film/
小児がんが不治の病ではないことを描き、病気になった子どもたちへの希望となった前作「風のかたち」の姉妹編。聖路加国際病院・副院長・細谷亮太医師が、最前線で小児がんを治療するひとりの医師としてこどもたちとすごした日々を、俳人・細谷亮々として「いのち」を見つめ綴ってきた俳句で綴るドキュメンタリー。小児がんの患者や体験者を悲劇の主人公として描くのではなく「再生」のシンボルとして描き、観る者に命の尊さ、生きる意味を問いかける。「大丈夫。」は細谷先生の口ぐせで、生きることへの励ましの言葉、祈りの言葉です。





プロフィール

細谷 亮太(写真左)
(小児科医/聖路加国際病院副院長)
1958年山形県生まれ。小児がんのこどもたちの治療にたずさわると同時に、こどもたちとのキャンプ活動や執筆活動にも取り組む。主な著作は「いつもいいことさがし」(暮らしの手帳社)「生きるために一句」(講談社)「生きようよ」(岩崎書店)など。句集に「桜桃」「二日」がある。


伊勢 真一(写真右)
(ドキュメンタリー映像作家)
1949年東京都生まれ。『奈緒ちゃん』『ありがとう』『えんとこ』『風のかたち』をはじめ、多くのヒューマンドキュメンタリーを製作。近年は若手の作品プロデュースも積極的に手掛けている。日常をふんわりと映し出す映像の中に、生きることの素晴らしさが込められた独特の作風で知られる。



『大丈夫。-小児科医・細谷亮太のコトバ-』
http://www.youtube.com/watch?v=NODPucGnPWs

いせフィルムの作品紹介はこちら
http://www2.odn.ne.jp/ise-film/ise2/works.html