北陸大学オープン大学
「シネマへの旅」〜鑑賞と映画作りの舞台裏〜

5/26(土)pm1:30〜3:00 北陸大学にて
第一回、
映画製作の現場から〜映画の製作・配給・興行に加え、
採算を目指す「ビジネスとしての映画」の実態を学びます。
また、企画・キャスティング・編集など、講師自らが担うプロデューサーの役割も解説します。

講師はユーロスペース代表、堀越謙三氏
カンヌ映画祭から帰ってきてすぐ、ユーロスペースが東京ロケ部分の製作を請け負っている、
フランスの映画監督オリヴィエ・アサイヤスの新作の撮影準備に入ったところ、とのこと。

まず映画製作の現場とはどんなものか、具体的なところから始めます、と。

シナリオ1枚が完成した映画の約1分に相当。

シナリオに書かれたことの意思疎通のための話し合いやこの舞台となる場を借りるために
どれだけの手間と費用がかかっているのか、などを今回のロケのシナリオ(2ページ)を例に、
撮影のための準備を読み取る。

シーンは高級レストランでの会食、会社訪問、車で街を走る、の3つ。
資料は目黒雅叙園の中の料亭見取図と会社の社員座席表。

●高級レストランでの会食シーン
撮影が料亭の個室の中だけなら、1 部屋分の借り賃(営業保証)ですむが、
料亭に入るシーンや廊下から個室に入るシーンを撮ろうとすれば、
他の個室も借り切らないと他の客の迷惑になる。
つまり廊下を歩く1シーンがあるだけで3倍の費用がかる(この場合だと約80万円の差)。

カメラはレールを使うのか、手持ちか? 
レールだと畳、廊下に養生を施すので50万の費用と徹夜の準備。

シナリオの中に「食事も終わりに近づいて」というト書き。
料理はどのくらい残っているべきか?−−
大衆料理屋なら皿が沢山残っているが、料亭ならデザート皿だけ。
その皿の色は?仲居さんはプロでなくてはならない、等々。

●会社訪問シーン
アニメ制作会社訪問では、背景に写る社員はリアリティのために出勤してもらう。
彼等のコンピュータに写るソフトの選定(権利問題)とモニターの走査線の解決。
操作するコンピュータは事故を考えて、6台持ち込む。
窓からの光を作るためにビルの外側に足場を組む、等々。

●車で街を走るシーン
街を走るリムジン。ネオン輝く通りを都内のあちらこちらで、デジカメとDVで撮影(ロケハン)。
撮影監督に俯瞰で撮る角度を聞き、それに合ったビルの階数で撮影可能な場所を数カ所探して交渉。
撮影は夏なので、街路樹の葉の繁り方に注意しないと、遮られる可能性がある。

場所が決まったら、実際の撮影時間に行って渋滞情況をチェック、等々。

このようにシナリオに書かれたことを一語一句詰めていきながら決定稿を作り上げること、
また、ロケハンを重ねて、できる限り監督の意向に沿うようにはしつつも、
何度も話し合いをし、折り合いをつけながら撮影を進めていくということを話す。
結果、映画はとても時間と費用のかかるもので、文化ではなくビジネスだ!と。

フランスの文化政策の例も挙げて話す。
フランスにとっては映画は重要な輸出品目の一つであり、
文化である以前に、まず産業なのだ、ということ等。


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その後、企画・製作・配給・興行の一覧表OHPシートを映写。
今まで話をしていたのはこの中の「製作」の部分の話と説明。
そしておおまかに企画・配給・興行の話。
配給が一番大変で、企画・製作は、作ってしまえば次へいけるが、
配給は、宣伝期間もかかるし、それが映画上映され、ビデオ化され、
テレビで放送され、映画祭に出品され・・・など、
後々へ繋がっていくので5〜10年くらいの付き合いになってしまったりもする。

           ・・・・・

それから、その一覧の「製作」のなかにある
「プロデューサー」の役割について説明に入る。
海外と日本のプロデューサー・クレジットの役割の違いをざっと説明。
日本では大雑把に「プロデューサー」と表記してある場合が多いが
「エグゼクティブ・プロデューサー」「ライン・プロデューサー」
「コー・プロデューサー」など、いろいろある。
頭に何もつかない「プロデューサー」というのが、実質的なプロデューサーで、

海外ではお金を集めた人しか「プロデューサー」とは呼ばれない。

ここでビデオを流し、邦画と洋画のクレジット表記の違いを説明。
(ビデオ資料:『人間椅子』『ポーラX』)
「製作:○○○」と、製作会社の社長の名前。
それから「企画:○○○」「プロデューサー:○○○」等々のクレジット。
それぞれについて実際の役割を説明。
タイトルの出し方、主役/準役の名前の挙げ方
(ひとりの名を一枚にあげるのか、複数連名であげるかの違いや中央、
右・左寄りにすることで微妙に違うことなど)

             ・・・・・

あとは、映画の裏話。
日本のエンターテイメント映画は海外ではビジネスにはならず、かえって作家性の強いものが売れている。
日本映画を考えるときにも、海外のマーケットを視野に入れずにいることはできないのだ、
ということで講義を締めくくる。

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シナリオから話が膨らみ、
映画を見る時のひとつの楽しみ方(クレジットの表記方法)もありとても楽しい内容だった。
また、そのひとつひとつの言葉に説得力があり、映画製作の実際、
ビジネスとしての映画のシビアさがよくわかる講義だった。

レポート/シネモンド(今里/山口)