6/9(土)pm1:30-3:00/北陸大学にて

外国映画の字幕は映画が面白くなるかどうかを左右する
重要なポイントであり、限られた字数で筋立や感情を言い尽くす表現力は驚嘆に値します。映画の実写を用いながら、字幕翻訳に実際に携わる講師から、どのように字幕は作られるのかを学びます。

講師は太田直子さん。
主な翻訳作品に『ボディーガード』『美女と野獣』などがある。

映画字幕は1931年に『モロッコ』という映画に日本語字幕が付けられたのが始まりで今年はちょうど字幕70周年にあたる、とのこと。

1本のフィルムにかかる時間は1週間から10日間ほど。年間の劇場公開作は300本くらいでひとりの字幕翻訳家が年間40本から、多くて60本くらいの仕事をこなすと6人で実際は済んでしまうところ。日本では戸田奈津子さんを筆頭に10人くらいの翻訳家が主に活躍。しかしテレビ放映やビデオリリースなどを含めると字幕翻訳者は数百人単位で存在する。

1フィート=2.5文字なので1秒を4文字にまとまられれば字幕翻訳家になれる、と太田さんは説明されるが太田さんは15年間、年間約50本の映画を翻訳しているが未だに納得のいく翻訳はできていない、とのこと。

下記のような資料をもとに、映画字幕ができるまでの説明。
実際、字幕制作会社へ見学に行って来られたそう。

■映画字幕の制作工程
1.試写/ハコ書き
原語台本の各セリフに区切りをつけ、
字幕の切り替わるタイミングを指定。通し番号をふる。
2.スポッティング
検尺器で各セリフの長さを測り、リストを作る。
その際、白鉛筆でフィルムにマーキング。
3.字幕翻訳
スポッティング・リストで許容字数を計算しながら
字幕原稿作成。
4.字幕カード作成
専門のライターが手書き。
5.カード校正
誤字脱字ないか確認。
6.字幕打ち込み作業
A)字幕カード撮影→縮小ネガ
B)活版作成→拡大鏡で欠損チェック→番号記入→裁断
C)薬剤でフィルムを表面軟化→字幕打ち込み
D)マーキング拭き取り
7.初号試写
最終チェック。問題あれば訂正。

太田さんの説明を加えると下記のよう。

1.試写/ハコ書き:
>原語台本の各セリフに区切りをつけ、
>字幕の切り替わるタイミングを指定。通し番号をふる。

最近では劇場試写ではなく、ビデオを見て翻訳するのがほとんど。
1時間半の映画で700〜1,000〜1,500セリフくらい。
ちなみに翻訳料は時間で決まるので、
セリフの多いものがあたると大変。
字幕は句読点をつけず、1行〜2行でまとめることが基本。
。は1マス/、は半角マスを空けることで、なるべく読みやすくする。

配給側から、縦書き/横書きの指定を受ける。
→縦書き:1行10文字で改行と決まっている。
→横書き:1行12文字〜13文字で改行。
      横の場合は都合のいい(読みやすい)ところで改行できる。
*最近はビデオにそのまま流用できるので横書きが増えてきている。

下記から、字幕制作会社の仕事。
コツコツと、地味で細かい作業。

2.スポッティング:
>検尺器で各セリフの長さを測り、リストを作る。
>その際、白鉛筆でフィルムにマーキング。

セリフの頭と終わりに白鉛筆で番号をマーキングする。

3.字幕翻訳:
>スポッティング・リストで許容字数を計算しながら
>字幕原稿作成。

4.字幕カード作成:
>専門のライターが手書き。

カードはひとつの映画におよそ1,000枚くらい。
ベテランのライターは、300枚/日くらい書き上げる。
最近ではコンピューターが使われる事が多くなってきたが
まだまだ手書き字幕は現役。

ここで、字幕カードを受講生におみやげプレゼント。
セリフとその番号が書かれている。

5.カード校正:
>誤字脱字ないか確認。

改めて言葉の訂正などをしたり…。

6.字幕打ち込み作業:
>A)字幕カード撮影→縮小ネガ
>B)活版作成→拡大鏡で欠損チェック→番号記入→裁断
>C)薬剤でフィルムを表面軟化→字幕打ち込み
>D)マーキング拭き取り

活版(銅版)作成会社は日本(東京)に4社のみ。
ここでまた受講生に活版(銅版)のプレゼント。
一文字が2ミリ程度に縮小されていて、ハンコのように字が逆になっている。(実際、業界では”ハンコ”といわれているそう)
フィルムを薬剤で軟化させ、その”ハンコ”を打ち込む。
文字数によってその圧力を調整したりするそう。まさに職人技!

7.初号試写:
>最終チェック。問題あれば訂正。

------------------------------------------
以上のように、字幕制作の工程を説明後、
字幕翻訳がどのようにされているかを具体的に説明するため、
自らが翻訳された『トッツィー』のワンシーン原語台本配布。
---各セリフには番号が付けられている。

『トッツィー』のビデオを見ながらそのシーンを確認。

その後、そのセリフの直訳と日本語に翻訳されたものの一覧を配布。
直訳でカットできそうなもの、
文字数の関係でどのように筋道が分かるようにまとめたかの工夫などを
その一覧と、ビデオを何度も見比べながら説明&確認。

---直訳とは全く違う言葉を用いながらも、しかし筋道は変わらずに伝えている。
これは本当に翻訳される人によってその映画がまた違ったものに見えるくらい、
重要なことだと改めて実感させられる。

その後、質疑応答。
実際翻訳の仕事をしているという受講生がいて
その現地での「新しい言葉」をどう入手しているのか、日本語の磨き方などを質問。

アメリカ(現地)の新しい言葉、流行の言葉などは
実際現地の人に聞いたり、インターネットで調べることが多い。
日本語はとにかくいろんな本や雑誌(週刊誌なども含めて)を読む。
しかし、流行語などは下手に使わない方がいい。
後々になって、言葉がおかしくなったりもするので。
それも作品によりけりで、後々残っていきそうな作品には使わないが
今しか上映されないようなものに関しては
多少流行の言葉を取り入れて遊んでみる、等そういう工夫もしている。

--
映画の筋道は変えずに、限られた文字で表現することの難しさや面白さ…
言葉を操る字幕翻訳家は、その映画におけるもうひとりの作家のようだ、と思った。
この講義を受け、言葉の重要性や奥の深さをひしひしと感じた。
字幕翻訳の話から、実際スクリーンに映し出されるまでの
字幕制作の話まで聞くことができ、字幕の舞台裏を垣間みることができた。

レポート/シネモンド(今里・山口)