〈映画製作のいきさつ〉

●金沢の商店街と映画館が共同企画
 『秋聲旅日記』は、金沢の商店街と映画館が共同企画した映画製作ワークショップから生まれた作品である。
 古都、金沢では他の地方都市と同様、ここ数年で郊外にシネマコンプレックスが進出すると同時にまちなかにあった昔ながらの映画館がすべて姿を消した。そんな中、1998年にシネモンドが開館。北陸唯一のミニシアターとして、他の劇場では上映されない映画を上映するという本来の役割だけでなく、空洞化する中心街に若者を呼び戻すため、また幅広く映画文化に触れられる“場”を提供するために「シネモンド映画講座」を始める。
 その第3弾として行われた「製作ワークショップ」は、ネットワークづくりと地域文化のさらなる活性化をはかる竪町(たてまち)商店街との共同企画となった。

●プロの撮影現場を体験
 ワークショップで受講生達の映画製作を指導するのは、第1回、第2回映画講座でも講師を務めた青山真治監督、撮影のたむらまさき氏、録音の菊池信之氏と錚々たる顔ぶれ。
 当初、青山監督の映画製作はワークショップには含まれていなかった。それが、「せっかく青山組が金沢に勢揃いしているのだから、金沢を撮ってもらいたい」という素朴な声があがり、これに対し、青山監督は映画美学校の講師としての経験から「プロの撮影現場を見学し、そこに参加することは、映画製作を学ぶうえで非常に効果的」なので「ワークショップの一環としてなら」ということで、青山組の撮影が実現されることになったのである。
 実際、ワークショップの受講生たちは、助手、エキストラ、見学を通してプロの現場に参加する貴重な体験をした。

●徳田秋聲
 せっかく金沢で撮るならば金沢三文豪のいずれかの原作を翻案するのはどうかという、青山監督自身の提案で、泉鏡花や室生犀星に比べ、これまであまり光の当たってこなかった感のある徳田秋聲の作品を原作にすることに決定。
 金沢市を始めとして、多くの地元企業がこの映画製作に賛同し、協賛。製作費が集められた。これも文化芸術に対する理解の深い金沢ならではのことである。
 ロケハンを重ねた青山監督は「挿話」「町の踊り場」「籠の小鳥」「旅日記」という金沢を舞台とした徳田秋聲の短篇4作品を見事に『秋聲旅日記』として翻案。
 撮影期間は2003年3月24日から4日間、オール金沢ロケ。ワークショップの学生たちとカメラも編集機材も同条件、学生たちの熱気を受けてか、非常に熱のこもった現場となった。